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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4659号 判決 1982年2月26日

原告

大島一雄

右訴訟代理人

菅谷瑞人

被告

高山幸男

被告

国際証券株式会社

右代表者

川島章司

右被告国際証券株式会社訴訟代理人

前田茂

鈴木禧八

市川正文

主文

一  被告高山幸男は原告に対し、金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する昭和五五年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告国際証券株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告高山幸男との間に生じたものは、被告高山幸男の負担とし、原告と被告国際証券株式会社との間に生じたものは原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  被告高山幸男に対する請求の趣旨

1  被告高山幸男は、原告に対し、金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和五五年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告高山幸男の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告国際証券株式会社に対する請求の趣旨

1(一)(主位的請求)

被告国際証券株式会社は、原告に対し金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する昭和五五年一〇月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)(予備的請求)

被告国際証券株式会社は、原告に対し金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和五五年五月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告国際証券株式会社の負担とする。

3  仮執行宣言。

三  被告高山幸男の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  被告国際証券株式会社の答弁

1  原告の主位的請求、予備的請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  被告高山幸男に対する請求の原因

1  被告国際証券株式会社(旧商号八千代証券株式会社、以下被告会社という)は証券業を営業とする会社であり、被告高山幸男(以下被告高山という)は、すくなくとも、昭和五三年一〇月頃から昭和五四年八月三一日までは被告会社に外務員として勤務していたものである。

2  原告は右被告会社の外務員たる被告高山を通じて被告会社と証券の取引きをしたが、被告高山の甘言に乗せられ、次のとおり合計金一、三四九万四、四一二円を同被告に騙取され、同額の損害を蒙つた。

即ち、被告高山は別表記載のとおり、昭和五四年一月二二日、原告に対し、訴外神崎製紙株式会社の公募新株一万株の払込み代金として預ける旨申し向けて金五二五万円を預かりながら、これを右目的に使用せず騙取したのを初め、以下同様に同年三月一二日には、訴外株式会社新井組の株式五〇〇〇株の買付代金名義をもつて金一八八万六、五八二円を、同年四月一九日には、訴外日本橋梁株式会社の株式七〇〇〇株の買付代金名義をもつて金三一四万二、六二〇円を、更にその頃訴外塩水港製糖株式会社の一万二〇〇〇株の株式買付代金名義をもつて金三二一万五、二一〇円を、いずれも原告から預かりながら右各目的に使用せず騙取したものである。

3  被告高山は右各不法行為の事実は認めながらも、原告から返還請求に対し、現在までに金二〇〇万円を返還しただけである。

4  よつて被告高山に対し損害賠償債権残金一、一四九万四四一二円とこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告会社に対する請求の原因

(主位的請求原因)

1 前記のとおり被告会社は、証券業を営む会社であり、また被告高山は、少くとも昭和五三年一〇月頃から昭和五四年八月一三日の間は、被告会社の外務員として勤務していた。従つて右期間内においては、被告高山は被告会社に代つて有価証券の売買その他の取引に関し、一切の裁判外の行為を行う権限を有していた(証券取引法第六四条第一項参照)。

2 しかして、原告は被告高山に対し、昭和五四年一月二二日から同年四月二〇日頃にかけて、別表一記載のとおり、株式の買付け、並びに増資新株に対する払込み等の業務を委託し、その資金として合計金一、三四九万四、四一二円を同被告に交付したが、同被告は右株式を原告に交付することなく、昭和五四年八月末日被告会社を退職してしまつた。

そこで原告は、被告会社に対し、昭和五五年九月三〇日付、同年一〇月一日到達の内容証明郵便により、原告が被告高山に対して買付け等を委託した前記株式を右郵便到達後七日以内に原告に引渡すべく、若しこの期間内にこれを引渡さなかつたときは、これを条件として前記株式買付け等に関する契約を解除する旨の催告をしたが、被告会社は右期間内に右株式の引渡しをしなかつた。従つて、前記契約は右郵便が被告会社に到達してから満七日後の同月八日の経過によつて解除となつた。

3 よつて原告は被告会社に対し、前記契約の解除に伴う原状回復の請求として、原告が前記契約に基づいて被告会社の代理人である被告高山に交付した金員のうち、金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する右契約解除の日の翌日たる昭和五五年一〇月九日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(予備的請求原因)

1 被告会社は、被告高山が前記不法行為を行つた当時、同被告高山の使用者であり、また、被告高山の不法行為は、被告会社の業務の執行についてなされたものであるから、被告会社は民法第七一五条により被告高山の不法行為によつて原告が蒙つた前記損害を賠償する義務がある。

2 原告は、予備的請求原因の第二として次のとおり主張する。

証券会社の外務員は、顧客から現金や株券を預かる機会が多いため、従来から、外務員の横領その他の不正行為は跡を絶たない。そこで監督官庁である大蔵省としては、そのような事故の防止対策として、証券会社が、外務員が他の業務を兼業することを認める場合には、その兼業業務の内容を調査し、事故発生のおそれのない業務に限つてこれを認めるよう証券会社に対して行政指導をしているのであるが、被告会社は、このような行政指導を無視し、被告高山が、不動産の売買及び仲介並びに管理(一般に不動産業と呼ばれるこのような事業に従事することは金銭に関する事故発生の確率が高いことは衆知の事実である)等を事業目的とする訴外高山総業株式会社なる会社を設立し、自ら代表取締役として事業経営に当つていることを知りながら、このような兼業を黙認ないし放任していた。これは被告会社の過失であることは明かであり、その結果被告高山は、本件だけではなく、原告以外の者に対しても被害総額一億円を超える不正行為をはたらくに至つたのである。

3 要するに、被告高山の本件不正行為、並びに原告の本件被害は被告会社の前記過失に基因するものであるから、被告会社は原告に対し、民法第七〇九条に基づく損害賠償義務がある。

4 よつて原告は被告会社に対し、原告が被告高山に交付した金員のうち、金一、一四九万四、四一二円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被告会社の請求原因に対する認否

(主位的請求原因)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、昭和五四年八月末日、被告高山が被告会社を退職したこと、同五五年一〇月一日、原告主張のような内容証明郵便が到達したこと、原告主張のような株式の引渡しをしなかつたことは認めるが、その余は不知。

3 同3は争う。

(予備的請求原因)

1 請求原因1、2の事実については、被告高山が被告会社の外務員であつたことを認め、その余はすべて否認する。仮に原告が被告高山に対しその主張のとおりの本件証券取引きの委託をしたとしても、それは被告会社とは無関係であり、被告高山の右行為は被告会社の職務執行行為としてなされたものではなく、原告も右事情を了知していたものである。又被告高山の兼業については同被告を採用する際に役員を辞任するよう、更にはルーズな出退勤を絶対にしないようしばしば注意、勧告していたものであり、仮にその点で過失ありとしても本件原告の損害と因果関係はない。

2 同3、4は争う。

四  主位的請求原因に対する抗弁

原告主張のような被告高山に対する本件各委託ないし各金員の交付については、被告会社の正規の取引手続は全くなされておらず、昭和五五年四月、原告代理人からの内容証明郵便に接するまで被告会社は知らなかつたことである。

しかし、仮に、原告により右のような委託ないし金員の交付が被告高山に対し行なわれたとしても、原告は証券取引法第六四条第二項にいう悪意のある顧客である。従つて、被告高山が、同条第一項により、その所属する証券会社に代つて、その有価証券の売買その他の取引に関し、一切の裁判外の行為を行なう権限を有するものとみなすことはできない。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

第三  証拠<省略>

理由

(被告高山関係)

<証拠>を綜合すれば、原告主張の請求原因1ないし3の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によれば、原告に対し被告高山は金一、一四九万四、四一二円とこれに対する不法行為後の訴状送達の翌日たる昭和五五年五月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

(被告会社関係)

一被告会社に対する主位的請求について

1  主位的請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の事実のうち、原告と被告会社との間に原告主張のとおりの株式買付け等に関する委託契約が被告高山を通じ有効に成立したのかどうかにつき判断するに、以下の理由により、これを肯認することができる。

即ち、証券取引法(昭和二三年法律第二五号)については、昭和四〇年法律第九〇号「証券取引法の一部を改正する法律」により第六四条が新設され、その第一項で、「外務員は、その所属する証券会社に代わつて、その有価証券の売買その他の取引に関し、一切の裁判外の行為を行なう権限を有するものとみなす。」とされた。この趣旨は証券会社の外務員が、会社の監視の目の届かない営業所外で、直接顧客と交渉を持つた場合に、その顧客が証券会社に対し、外務員の行為に基づく契約上の責任を追及することがすみやかにできるように、投資家保護の見地から、外務員の代理権の範囲を明確に定めたことにあることは疑いのないところである。それゆえ、本件のごとく顧客が自らを原告とし、証券会社を被告として外務員の行為による責任を追及するために訴を提起した場合原告の主張、立証すべき事実は、

① 当該外務員が被告会社に所属すること、

② 有価証券の売買その他の取引など被告会社の業務の範囲に属する業務につき、原告が右外務員との間で有価証券の売買のための委託等の取引行為をしたこと、ということになるというべきところ、本件において、被告高山が原告主張の原告と委託等の取引行為をした当時、被告会社の外務員であつたことは、前記1のとおり当事者間に争いがなく、原告が被告高山とその主張のとおりの委託等の取引行為をなしたことは前記(被告高山関係)での認定により明らかであるから、結局、原告と被告会社との間の株式買付け等に関する委託契約は一応有効に成立したものというべきである。

3  抗弁について

(一) ところで被告会社は、原告が証券取引法第六四条第二項にいう悪意のある顧客である旨主張する。同法第六四条第二項は、同条第一項を受けて「前項の規定は、相手方が悪意であつた場合においては、適用しない。」と規定している。即ち同条は、第一項において前述の如く顧客保護の見地から、外務員の代理権の範囲を明確にするとともに、第二項によつてその例外を設け、顧客(原告)と証券会社(被告会社)との間の利害調整をはかつている。その際、「悪意」の内容いかんが問題となるが、右規定の趣旨に照らせば、外務員の代理権が欠缺ないし制限されている場合に限定すべきではなく、外務員が当該証券会社のために取引していない場合ないし外務員が特別の個人的信頼関係から顧客の代理人として行為した場合も含まれるもの、しかして重過失によりこれらの事実を知らないような場合はこれに含まれないと解するのが相当である。

(二) 以上の法解釈を前提に抗弁事実の成否を検討するに、<証拠>を綜合すれば、

(1) 原告は肩書住所地において料理店を多年にわたり経営している者であるが、被告高山とは同被告が訴外金十証券に外務員として勤めていた昭和五〇年頃からの付合いで、利殖及び頭の老化を防ぐという目的もあり同被告を通じ年間約一〇回位の株式の買付、売付注文等の証券取引を委託していた間柄であり、右両者の関係は、被告高山が昭和五三年頃被告会社に移つてからも続いていたものであること、

(2) ところで通常被告会社において顧客から株式買付注文があつた場合に、売買が成立したときは、銘柄、数量、単価、金額等を記入した売買報告書を取引の成立したその日のうちに顧客に発送し取引内容を報告していること、そして決済日(取引が成立した日を含めて四日目)に買付代金が支払われ、決済されると、買付株券が顧客に交付されるか、又は顧客が保護預りを希望する場合は、被告会社発行の預り証が交付されることになること、取引の実際としては株券の保護預りの例が圧倒的に多く、現に原告との取引はすべて保護預りにより被告会社発行の預り証が原告に交付されていること次に売付注文の場合は、取引が成立したならば、買付と同様売買報告書が顧客に郵送され、決済日(四日目)に売付株券の被告会社への納入又は売付株券が保護預りされているときは預り証が返還され、売付代金が顧客に支払われるのであつて、このような取引が通常のあり方であり、正規な取引であること、

(3) 一方元被告会社外務員被告高山を担当者として被告会社と原告との間の証券の取引が開始されたのは、昭和五三年三月七日であつて、その取引状況は、取引開始より最後の売買委託のあつた昭和五四年一月二二日までの間に、株式の買付注文を受託執行した取引が七回、株式の売付注文を受託執行した取引が八回に及んでおり、右の合計一五回にわたる取引については、前記(2)の各手続による適法、適式な取引が行なわれていたものであること、

(4) しかるに、昭和五四年一月二二日の訴外神崎製紙株式会社の公募新株一万株の払込みの件をはじめとする以後の別表記載の本件証券取引きについては、いずれも被告高山の個人的な預り証ないし受領証(甲第一ないし第四号証)のみが、原告に交付されただけであること、このように、個人的な預り証を交付して顧客から金員を受領することは被告会社はもとよりのこと、いかなる証券会社においても、厳重に禁止されている行為であること、また、株式買付前に顧客から買付代金を受領することは、被告会社と顧客との初めての取引の場合、保証の意味で何割かを事前に受領する場合がないではないが、その他の場合においては通常ありえないこと、右の例外的に事前に代金を受領する場合においても、もちろん被告会社発行の現金預り証が顧客に交付されるものであること、

(5) それにも拘らず、原告が従前の取引手続きにも照らし被告高山ないし被告会社に対し被告会社の正式書類の交付を要求するということはなかつたこと、ところで、右受領証のうち、甲第三号証には、四月一九日買付のための受領資金が金三、一四万二、六二〇円で、それから一週間後の返却額は金三、二六万九、五七〇円となつており、金一二万六、九五〇円の利益を約束するが如き記載が、甲第四号証も買付けのための受領金額が金三、二一万五、二一〇円で、返却額は金三、二九万六、九六四円となつており、金八万一、七五四円の利益を約束するが如き記載があるが、この点についての原告本人の供述はあいまいであること、

(6) 被告高山が昭和五四年八月三一日付をもつて被告会社を退社するにあたり、被告会社との取引による昭和五四年八月四日、現在の勘定残高を確認するため残高照合書を持参し、当時被告会社の投資顧問室総務部長であつた訴外小野津博好が、同年八月四日より同年八月一三日までの間に二度にわたり原告宅を訪問しているが、これに対し、原告は、本件で問題となつている各株式については何らの記載のない残高照合書を承認し、被告会社あてにその残高を承認した残高承認書を同年八月一三日送付していること、

又、右の訴外小野津博好の訪問の際、同人が原告に対して、何か不審の点はないのかと質問したのに対し、原告からは本件の問題について何ら不審であるとの申し出もなく、又何らの苦情もなかつたこと、

(7) 原告は昭和五五年二月八日、被告会社に預けていた訴外ニホンバルカーの株式二万株につき取引きを解約し、被告会社からその返還を受けたものであるが、その際にも、原告は被告高山の本件各行為について被告会社に対し何らの苦情も問い合せもしていないこと、

(8) さらに、原告は本件の損害賠償について、被告会社に全く連絡せず、まず、被告高山に請求し、金二〇〇万円を受領していること、

(9) 昭和五五年四月、原告代理人からの内容証明郵便に接するまで被告会社は本件の各金員の交付の事実は全然知らなかつたこと、が認定でき、

(10) 以上の事実を綜合すれば、原告は被告会社との間で、株式買付けの場合は被告会社発行の預り証を受領し、買付の場合は同預り証を返還するという正規の取引方法を数多く体験し充分知つていたものであり、従つて原告は、被告高山に対する本件で問題となつている株式の各買付委託、各金員の交付が、被告高山個人発行の預り証の記載等から、被告会社とは何らの関係もなく、被告高山との間の個人的な取引きであることを充分了知していたものというべきであつて、原告が被告高山と右のような個人的取引きをなすに至つたのは、被告高山と原告とは被告会社で取引きが開始される以前から特別の面識関係があり、被告会社で取引開始後も原告は被告高山を信頼し取引を継続していたものであり、両者の間に個人的な特別の信頼関係が存在していたこと、右人的関係の下に、原告と被告高山との間に、原告が資金を被告高山に預けて、株式売買による運用をしてもらい一定の利益の支払いを受ける約束がなされたからに外ならないと推認するのが相当である。右認定に抵触する原告本人尋問の結果は採用せず他にこの認定を覆えすに足る的確な証拠はない。

(三) しからば、被告高山は原告との本件取引きを被告会社のためにこれに代わつてなしたものではなく、原告の代理人として行為し、原告もこれを了知していたというべきであるから原告は証券取引法第六四条第二項にいう悪意の相手方といわざるを得ず、被告会社の悪意の抗弁は理由がある。

二被告会社に対する予備的請求について

原告は被告会社に対しその外務員被告高山の不法行為に基づく民法第七一五条によるないし直接民法第七〇九条による払込代金残額相当の損害賠償の支払いを求めるものであるところ、本件事実関係は前記一の主位的請求において認定したとおりであつて、被告会社は被告高山との関係では民法第七一五条の使用者に該当するものであるとしても、被告高山のなした本件取引行為は、被告会社の事業の執行行為としなされたものとは認められず、仮に被告高山がなした本件取引行為が、外形からみて、その職務内の行為に属するものとみられるとしても、その行為の実質が被用者の職務権限を逸脱して行なわれたものであり、且つ、原告もそれらの事情を知つて取引きしたものであるから、その結果原告が損害を蒙つたとしても、原告は外形理論による保護に値せずいずれにしても被告会社は民法第七一五条の使用者責任を負わないというべく、更に被告会社の民法第七〇九条責任については、そもそも被告高山の兼業と原告の損害との間に因果関係ありとは到底認められず、その他被告会社につき民法第七〇九条の故意、過失の責任を認めるに足る証拠はない。

三以上により原告の被告会社に対する本訴請求は主位的、予備的請求とも理由がないことに帰する。

(結論)

よつて、原告の被告高山に対する本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、被告会社に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(根本久)

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